sakamobi.com

ここは愉快なインターネッツですね

囲い込まれた客が誤解するアマゾンの本質

   

囲い込まれた客が誤解するアマゾンの本質

雇用を抑圧し、地域経済を壊す?

アマゾンは究極ともいえる利便性を提供してきました。赤字覚悟でシェアを拡大するため、競合は対抗できません。その結果、何が起きるか。アメリカでは従業員の賃金が抑圧されているという告発が相次いでいます。地元に根付いていた小売業者も駆逐されつつあります。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「顧客への熱い想いはうかがえるが、社会への責任についてほとんど言及がない」と指摘します――。(第3回、全3回)

「何を買うにもアマゾン」というユーザー

2017年10月時点で、アマゾンの時価総額は約4700億ドル、2016年12月期の売上高は約1360億ドルにのぼります。オンラインショッピング市場におけるシェアは46%、現在では米国でオンラインショッピングを楽しむ消費者のうち55%が、グーグルなどの検索エンジンを経ずに、直接アマゾンにアクセスしているという調査もあります。書籍に始まり、家電にファッション、そして生鮮食料品まで揃えようというのですから、「何を買うにもアマゾン」というユーザーは、年々増える一方です。

さらには、アマゾン・マーケットプレイス、アマゾン・プライム、独自の物流システムであるFBAに、無人コンビニ「アマゾン・ゴー」、音声認識アシスタント「アレクサ」を搭載したスピーカー「アマゾン・エコー」、そして、アマゾンをメガテックたらしめているクラウドサービスAWS。こうしたサービスを矢継ぎ早に投入することで、アマゾンはオンラインの小売企業にとどまることなく、人々の生活や商取引のあらゆる側面、すなわち経済全体のシェア獲得を進めています。

こうしたすべてのサービスの相乗効果によって、アマゾンは人々が経済活動をするさいに欠かすことのできないインフラとなりました。プラットフォームを標榜しているアマゾンですが、もはやインフラと表現したほうが適切だといえます。

「まるでアマゾンは要塞のようだ」

このインフラは、アマゾンが蓄積したビッグデータからくる優れたユーザー・エクスペリエンス、徹底した顧客第一主義によって、止むことなく改善されていき、ユーザーにとってますます捨てがたいものになっていくことでしょう。

もはや人々はアマゾンというインフラなしでは暮らせないかもしれません。私自身、書籍や雑貨をアマゾンばかりで購入する日が続くと、「まるでアマゾンは要塞のようだ」と、ふと感じることがあります。いったんアマゾンの要塞に足を踏み入れたら最後、消費者も、事業者も、競合事業までもが囲い込まれ、このアマゾンの要塞のなかであらゆる経済活動が完結する。より正しくは、それを余儀なくされる可能性があるのです。

アマゾンは、そのインフラによって究極ともいえる利便性をユーザーに提供してきました。しかし反面、アマゾンの要塞から疎外された産業、企業をスポイルし、新しい事業機会や成長機会を奪うという批判は、避けがたいものになっています。

たとえば、アマゾンは自らの潤沢な資金をもとに戦略的に必要だと判断した商品を、それ単品では赤字が出るほどの安価で販売しています。これでは、十分な資金力を持たない他社は競合のしようもありません。そして、奪った顧客を囲い込むのに機能しているのが、アマゾン・プライムが提供する各種の特典です。こうなると顧客はアマゾン以外で買い物をするインセンティブがなくなります。

独占禁止法違反の可能性も

結果として、競合関係にある小売業者にも「アマゾンのプラットフォーム上で売る」よう強いることになります。アマゾンは彼ら小売業者からも、税金のようにして手数料を徴収していくのです。お金だけではありません。各小売業者の販売データをも自分のものとしたアマゾンは、それを自社独自の商品ラインの開発に活かしています。

要するにアマゾンは、他社のデータを用いて自社商品を開発し、他社の価格戦略を見て値段を下げ、それによって市場シェアを広げ、得られた利益で要塞をさらに強固にしているという側面もあるといえるでしょう。競合から見たら恐るべきサイクルです。

アマゾンの独自商品の多くは、検索リストの上位に表示されるという話もあり、それが本当なら独占禁止法違反の可能性もあるでしょう。しかしそれ以上に、大きな市場シェアを獲得するだけに終わらず、インフラごと支配するに至っているというところに、多くの人が危機感を覚えるのです。競合する事業者であっても、何かビジネスを起こそうと思ったら「まずアマゾンのドアをノックしなければならない」という苦しい状況となっているからです。

それはユーザーにとって本当に幸福なのか

肝心のユーザーにとっても、アマゾンに囲い込まれている状況は本当に幸福なのでしょうか。ほしいものはすべてアマゾンで買える、買うモノが思いつかなくても自分の購買履歴などのビッグデータを分析したアマゾンが次々にリコメンドしてくれる。それはそれですばらしいユーザー・エクスペリエンスであることは間違いありません。

しかし現実には、アマゾンという要塞のなかに閉じ込められており、そこから出られなくなっているだけともいえるのです。ふと、「アマゾンの外の世界にもっといいものがたくさんあるかもしれない」という疑問が浮かんではこないでしょうか。自分の自由が制限されているような、個人の尊厳が損なわれているような気持ちになっても、不思議なことではありません。

雇用削減、低賃金、そして地域経済の衰退

アマゾンが従業員の雇用や賃金を抑圧しているという情報は、米国ではこれまで多数報告されてきました。アマゾンはこれまでリテール部門において10万人以上削減しているともいわれており、そのペースも、アマゾンが成長するにつれて年々加速しているとの報告もあります。

アマゾンの配送倉庫に勤務する労働者は、FBAに関わる業務がかなりの重労働にもかかわらず、その同一地域にある他の配送倉庫に勤務する労働者に比べて、平均で15%低い賃金で雇われているとの指摘もなされています。

また、その多くが有期雇用や季節雇用になっているとのことです。この雇用形態に対しては、労働者が被る業務に関係する労災の責任を回避するためのものであり、労働者による直接雇用および、よい雇用条件を求める声を抑えるものであるとの批判もなされています。とくにアマゾンは季節雇用への依存度を強めており、米国の30都市では、フリーランス・ドライバーがアプリから指示を受け、配送を行ない、それぞれの配送ごとに比較的定額の報酬を受け取る、という仕組みに移行しつつあるとも指摘されています。

所得格差を拡大させるひとつの要因に

その背景にあるのは、配送倉庫におけるオートメーション化です。最新のフルフィルメントセンターではロボットが設置されていますし、将来的にはドローンによる配達も始まります。正社員を雇用しない傾向はますます強くなっていくのではないでしょうか。

アマゾン側は、「事業コストを抑えれば、その効果は顧客に還元できる」としています。しかしその背後には、労働者との利益配分の問題があります。さらにいえば、一握りの幹部や大株主に対しては絶大な富をもたらしており、所得格差を拡大させるひとつの要因ともいえるでしょう。

また、地域経済を弱体化させているという批判もあります。まず取り上げなくてはならないのは、アマゾンの成長によって、地元に根付いた小売業者が次々に閉店に追い込まれているという指摘です。前述の通り、ILSRの集計によれば、2015年までに1億3500万平方フィート以上の物件が空室になったとされています。

社会への責任について言及がほとんどない

一方、アマゾンはネットショップであるためこれまでは実店舗を持たず、一部の地域に最低限の倉庫を置くにとどまり、そのため地域社会にとって貴重な財源である固定資産税をほとんど払っていないという指摘もあります。2015年には、アマゾンに関連する米国全体の資産税収入の減少は5億2800万ドルに達したという試算も出されています。

もし本当に「アマゾンが成長するほどに、従業員の本来受け取るべき利益が減らされ、小売りのリアルショップは閉店し、地域社会は財政を悪化させている」のだとしたなら、その見返りとして顧客に優れたユーザー・エクスペリエンスを提供しているのだとしても、批判を受けるのはやむを得ないといえるでしょう。これらの批判が、先に述べたアマゾンのCSR面等での低評価につながっているのではないかと思われます。

近年、企業の社会的な責任が問われるようになってきました。「企業は社会の公器であるべき」だとするCSRの考え方に立つならば、真の顧客第一主義とは、狭義の顧客だけではなく、広く取引先や関連業界、社会全体のことまでを大切にする価値観ではないかと考えられます。あれだけ狭義の直接的な顧客への想いは毎年のアニュアルレポートのなかでも熱く語られているにもかかわらず、社会への責任についての言及がジェフ・ベゾス(アマゾンCEO)からほとんどなされていないのは、本当に残念に思うのです。

宇宙事業を語るときは別人のよう

宇宙事業を語る際には「人類を宇宙に」との使命感を露わにするベゾスとはまったく別人のふるまいのようにすら感じられます。ここで2017年5月、米国インターネット協会の公開対談でベゾスが語った言葉を紹介させてください。対談の様子を動画でみて、私は宇宙事業を説明しているときのベゾスは、心からの使命感で熱く語っていると思いました。

「5歳の頃から宇宙に夢を抱いてきた」

「自分はアマゾンという大きな宝くじを当てた。その資金を宇宙事業につぎ込んでいる。そのためにアマゾンをやっていると言っていいくらいだ」

「宇宙事業のミッションは、多くの人達が宇宙に住めるようにすることだ」

「そのためには宇宙事業への参入を容易にする必要がある」

「自分がアマゾンを始めたときには、通信、交通、コンピュータなどのインフラは当たり前のようにあった。だからスタートアップでは自分たちの資金でアマゾンを始めることができた」

「宇宙事業は現在でも巨額の投資が必要だ。それを自分が宇宙事業のプラットフォームをつくっていくことで起業家も参加しやすくなり、宇宙に行くこと自体もより低コストで可能になるようにしたい」

「地球の将来を考えると人類の何割かは宇宙に住むことが必要になる時代が到来する。全世界の人口を抑えることは望ましいことではない。それよりも地球と宇宙に別れてそれぞれが望むところに住むほうがいい」

「今からずっと先のことかも知れないが、自分はこのようなことに貢献したいと思っている」

同じような社会全体、人類全体への使命感を、アマゾン本体の事業においても指し示してほしい――。これだけの影響力を持った以上、狭義の顧客第一主義ばかりでなく、社会の公器としての自覚や責任を、第6章で取り上げたジャック・マーのように、より顕在化させるべきではないでしょうか。アマゾン・ジャパンでは、「三方良し」を大切にする日本独特の文化やニーズを米国本社に理解してもらうことにも腐心しているようです。個人的にはベゾスを尊敬しているだけに、本当に強く期待したいところなのです。

http://president.jp/articles/-/23639

地元に根付いていた小売業者をAmazonが根絶やしにした後、そこに広がっているであろう風景を想像すると悪寒が走るね

関連コンテンツ ユニット



 - ニュース, ネット