パックン 「残念なお知らせです。大坂なおみ選手は日本代表でオリンピックに出ません。」

<日本国籍は本当に魅力的。でも、テニスの大坂なおみ選手は日本ではなくアメリカ国籍を選択するだろう。その理由と、日本にできることを考えてみると……。>

残念なお知らせです。大坂なおみ選手は日本代表でオリンピックに出ません。

すみません。少し言い過ぎました。お知らせではなく予想、残念な予想なだけです。

ちょっと変な予想だけど、この読みには自信がある。残念な自信はある。

理由は簡単。IOC(国際オリンピック委員会)のルールとして、アスリートは国籍のない国の代表選手になれない。そして、日本のルールとして、外国籍を有するものは日本の国籍を有せない。法律上、アメリカ人の父と日本人の母に生まれ日米二重国籍の大坂選手は、22歳になるまでに1つの国籍を選び、もう1つから離脱しないといけない。来年10月16日の誕生日を迎える前に選択を迫られるのだ。国籍というバースデープレゼントが選べると思えばいいかもしれない。

そこで大坂選手は、残念ながら、アメリカを選んでしまう。

すみません。また言い切っちゃったが、予想です。悲しい予想なだけです。

国際結婚で生まれた一般の人ならば、黙っておけば両方の国籍を持ち続けることが可能だといわれる。原則として禁止でも、取り締まりも、法的な罰則もない。蓮舫さんのように話題に上がらなければ、外国の国籍を放棄することは「努力義務」で終わり、強制されないものだ。実際問題、そんな「隠れ二重国籍保有者」は多いようだ。知り合いのハーフの人でも、僕を信用して、その状態であると教えてくれた人が数人いる。その状態であっても、僕を信用しないで教えてくれない人はもっといるだろう。

でも大坂選手は有名人だし、日本代表候補。全国民が彼女の選択に注目していて、黙ってスルーすることはできなさそう。違法状態はスポンサーも許すまい。ましてや、なおみちゃんは純粋でちゃんとやりたいタイプ。ズルなんかしない!

これもまた勝手なイメージにすぎないけど、きっとそうだ。

じゃ、アメリカ国籍なんか捨てて日本を取ればいいだろう!

そう思う。僕もそうしてくれることを願っている。でも、大坂選手が純粋な性格であっても損得計算をするはずだ。ここで僕らもしてみよう。

まず、日本国籍にするメリットを考えよう。大坂選手の場合は、日本企業から莫大なスポンサー料がもらえるなど特別な利点ももちろんあるが、この文化、社会、歴史、未来においても素晴らしい日本の一員になれる、ということが一番のメリットだ。国籍があれば、日本で仕事もできるし、仕事をしていなくても日本にいられる。投票ができる。大好きな日本にフルで参加できる。日本人でいれば、世界中の人に好かれるし、世界中の子供から忍術ができると思われる。いいことずくめだ。

(日本国籍は本当に魅力的。心からそう思っている。この話題においては冷静沈着に分析しているつもりだが、僕のバイアスは必ず見え隠れするだろう。むしろ隠さずに本音をはっきり言おう。日本の国籍がほしい。忍者になりたいし)。

では、そんな最高の日本国籍のために、大坂選手が払う代償とはなんだろう。それは、アメリカ国籍の放棄による損失。思い入れや感情は本人にしか分からないから触れないようにするが、それでも厳しい計算になる。まず、国籍がなくなるとアメリカで投票する権利、労働する権利、長期滞在する権利などがなくなる。申請すればもらえるものもあるが、親に付随する形になり、自分の権利じゃなくなる。自分の子供にアメリカ国籍を与える権利もなくなる。つまりアメリカ人じゃなくなり、訛りだけが残る。

もちろん、日本の国籍を放棄しても、同じ権利をなくすことになる。大坂選手にとっては、今まで日本でそれらの権利をほとんど使ってもいないので喪失感は比較的軽いかもしれないけど、それだけの計算だったら、アメリカを捨てて日本を取る可能性が十分あるかもしれない。しかし、それだけじゃない。

制度の違いから、国籍の選択によるダメージが日米で大きく変わる。まず、アメリカ国籍を放棄すると相続税の免除が消えるから、親が亡くなったときに支払う税額がぐんと上がる。さらに、実は国籍を放棄するときにかかる特別な税金がある。Expatriation tax(国籍離脱税)といって、脱税目的の「名ばかり帰化」を抑止するために設置されたものだが、国籍を失う場合、全財産の20%を税金としてアメリカに納めないといけない。いろいろな条件はあるが、大坂選手はたぶんこの税金の対象者になるだろう。日本にも国籍を放棄して海外に移住する人に対する税金はあるが、既に在米の大坂選手にはかからない(さっき税務局に電話して確認したが、担当者は明らかにそんな質問は初めてという様子だった)。

ざっと計算しよう。先日優勝した全米オープンの賞金は約4億円。それだけでも、20%で8000万円の納税額になる。その上、大坂選手の収入はこの先急増し、年間15億円になってもおかしくないといわれる。それに対する税額は相当な数字になる。

どうだろう? あなたなら、住んだ記憶がない国の国籍を持ち続けるために、育った国の国籍を捨て、国籍離脱税の数億円をドナルド・トランプ大統領に渡す? 僕なら、きっと迷う。というか、まだ1回も全米オープンを優勝していない僕でさえ、その選択についてずっと迷っているのだ。

そう考えると、大坂選手は日本のユニフォーム姿でオリンピックに出ない可能性が大きい。しかも、実はオリンピック憲章によると、一度ある国の代表になった選手は3年間経たないと、他の国の代表になれない。ということは、大坂選手はアメリカ人のままでもアメリカ代表になれなく、新国立競技場で見る姿も普段着かもしれない。

犠牲にするものが大き過ぎるからアメリカ国籍を棄てない、と決めたら、日本国籍を持てないし、東京オリンピックにも出られない。大坂選手、かわいそう! 日本のファンもかわいそう! 考えるだけで泣きそう。

ちょっと待って! やり方はあるかもしれない!

今のうちに二重国籍を認めるっていうのはどうですか?

そう。これが本題。お待たせしました! もちろん、大坂選手のために特例を作ってもいいが、せっかくだからもっと広範囲な国籍法の改正を考えてみよう。

そもそもイギリス、フランス、アメリカなど、西洋の国のほとんどは二重国籍を昔から認めている。さらに、この数十年でその数がどんどん増えている。メキシコ、イタリア、オーストラリア、ハンガリー、ブラジルなど、十数もの国々が90年代以来、二重国籍を容認するようになった。アジアにおいては、その数は昔から少ないが、2010年にお隣の韓国も法改正した。その韓国の狙いややり方は日本にとって、とても参考になるかもしれない。

韓国は日本と同じく、少子高齢化で深刻な労働不足に陥り、優秀な人材確保が急務となっている。そこで世界中に拡散している韓国系の人に目を付けた。親や祖父母、または本人が外国に移住して、外国籍をとったとき、昔の法律で韓国の国籍を放棄せざるを得なかった「元韓国人」が世界各地で活躍している。二重国籍を認めることで母国に帰ってくる人もいれば、外国にいながら、懸け橋的な存在として母国の発展に貢献する人もいるはずだ。外国籍だと韓国での経済活動などが自由にできないが、国籍さえあれば母国の力になれる範囲がぐっと広がると思われる。

日本も一緒だ。日本出身の人が世界で功績をあげていることは誰にも分かる。石黒一雄さんはノーベル文学賞を取った。中村修二さんはノーベル物理学賞を取った。オノヨーコさんはビートルズを解散させた。正確に言うと、みんな「外国人」だが、日本の誇りでもある。こんな「元日本人」は日本人のままでもよかったのではないか。同じように、有名じゃなくても各分野で一翼を担っている人々は無数にいるはず。日本を盛り上げるポテンシャルはそこに眠っているのだ。

日系じゃなくても、日本に人生をかけてくれる外国人もいる。そして、日本はそんな人を必要としているようだ。技能実習制度で働いていた人でも、政府は在留資格の対象人数を増やし、在留期間も伸ばし、更新も可能にしている。さらに2019年4月からは単純労働者を受け入れるために新しい在留資格を設けることになっている。これらの制度の下では、日本に家族を連れてきたり、永住権を取ったりすることはできないけど、おそらく、この先これも緩和されるとみる。いい人材を失いたくないからだ。

高度なスキルを持つ労働者だと、もっと必死に誘致している。「投資・経営」や「人文知識・国際業務」「医療」などの在留資格で日本にいる外国人は配偶者や子供を家族滞在ビザで呼べるし、数年日本に住めば永住権が取れる。さらに、条件を満たせば国籍ももらえる。日本にいてほしいからだ。しかし、そのためには母国の国籍喪失が避けられない。そうすると、母国での身分登録が消されたり、仕事や不動産の所有ができなくなったり、税率や学費が跳ね上がったり、国籍離脱税を取られたりと、国によって異なるが、代償が大きい。当事者にとっては、日本への貢献が認められ、報われるかと思いきや、逆に罰せられた気になるかもしれない。

世界の「できる人」はどこかに移り住もうと考えたとき、何の不利益もなしに国籍をくれる国とくれない国を天秤にかけたら、前者を選ぶはずだ。既に就労ビザなどで入って頑張っている優秀な人も、その国に投資するのか、起業をするのか、根を下ろすのか、将来をかけるのか、どれもダメージなしに国籍が得られるかどうかによって判断が変わる可能性がある。少子化が進む国々が人材を取り合っているなか、優秀な人ほど選択肢がある。そして、そんな人ほど自分の国にいてほしい。

韓国もそう考え、韓国系じゃなくても、条件を満たす外国人にも二重国籍を認めるようにした。基準はとても厳しいが、特別扱いするほどほしい、特別な人はいると判断したのだろう。

日本も好きな条件を付けてもいい。多くの日本人は移民に対して不安を抱えていることが事実だ。外国人に国籍を与えることに抵抗がある人もいる。それが二重国籍だとさらに強い。スパイじゃないの? いざという時は出身国へ逃げないの? 親戚とかぞろぞろと連れてこないの? などなどと疑われるのだ。

でも、国民を安心させる対策はあるはずだ。二重国籍を持っていたら公職に就くことはできない、同盟国出身者に限る、反則した場合は国籍解消となる、家族滞在に制限がある、などなど基準や規則はいろいろ考えられる。ワーストケースシナリオだけに集中して拒絶反応を起こすのではなく、日本のためになる人間を想定し、日本のためになる制度を作ればいい。

日本の国籍を得るのはとても名誉なことだから、最終的には緩和することになるとしても、今は厳しい基準であってもいい人が集まるはず。僕のお勧めの条件としては、25年以上日本に在住している人。日本に不動産を持っている人。コラムをかけるほど日本語力のある人。ショートコントができる人。コンビの相方とそこそこ仲良くしている人……。

それか、制度の詳細を決めるのは後にして、とりあえず今は「全米オープンで優勝した人」だけに絞ってもいい。とにかく、二重国籍を認めませんか?

今から練習しますから!

日本は大坂なおみの二重国籍を認めるべき!
<*今コラムは2018年9月の掲載時、国籍に関する日本の法令について筆者パックン...

 

面白く、分かりやすくて、為になる。良記事( ´∀`)bグッ!

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