キャッシュレス進む中国、「現金信仰」が根強い日本は周回遅れ

【地球コラム】キャッシュレス進む中国、周回遅れの日本

◇レジがない「無人スーパー」
今年は日本でも「キャッシュレス元年」と言われ、政府も旗振りに尽力しているものの、「現金信仰」が根強いのか、QRコードやキャッシュカードをはじめとした現金を使わない決済の浸透にはいまいちスピード感がない。2016年度の日本の電子マネー決済は10兆円以下、キャッシュレス決済比率は20%にとどまっている。スマートフォンの普及とともに、急速にキャッシュレス化が進み、スマホ決済が約1600兆円、キャッシュレス決済比率が60%を超える中国とは対照的だ。最近では長足の進歩を遂げる中国のイノベーションに対する日本の遅れが指摘されることも多い。ここ数年でキャッシュレスが席巻した中国の事情を見てみたい。(日本政策投資銀行・業務企画部イノベーション推進室課長 中川雅晴)

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先日、久しぶりに出張で訪れた北京では、訪問先のオフィスビルの1階に中国のインターネット通販大手「京東」の無人スーパーがオープンしていた。この無人スーパーは会員制だが、スマホさえ持っていれば、その場で会員登録ができる。「顔認証」を使用するため、スマホの写真機能を用い顔写真も登録する。入店の際はスマホのQRコードをかざし、顔認証を受ける必要がある。

北京市内の無人スーバーで支払いを完了した男性=2018年11月7日、北京
商品にはすべてRFシールが貼られ、決済も「RFID」の技術を活用。「RFID」とは商品情報を埋め込んだタグを近距離無線通信でやり取りするもので、在庫管理等に用いられている。この技術により、客は店から出る際にゲート前で顔認証を受けるだけで、購入したい商品は自動的に決済される。日本でも既に見られる無人レジでは、客は商品のバーコードを読み取らせる必要があるが、その手間もない。もうレジさえ必要ないという訳だ。

棚への商品の補充は人間が行うため、本当に「無人」という訳ではない。ただ、中国企業が既にキャッシュレス化を前提に、技術革新に向けた試行錯誤を不断に実施していることに深い印象を受けた。

◇スマホが後押し
中国で2016年ごろから急速に進んだキャッシュレス化を後押ししたのはスマホだ。京東と並ぶ電子商取引(EC)大手「阿里巴巴(アリババ)」は通販サイト「淘宝網」をスマホサービスで拡大。ネットサービス大手「騰訊(テンセント)」はLINEの中国版「微信(ウィーチャット)」を世に問い、手軽にメッセージをやりとりできる同アプリは一躍ヒットした。

日本のキャッシュレス決済の担い手はクレジットカードと電子マネーだが、中国のキャッシュレス化を推進したのは、このアリババとテンセントという巨大IT企業だった。アリババは決済サービス「支付宝(アリペイ)」を開始し、テンセントはウィーチャット上でメッセージに加え、金をやりとりできるサービス「微信支付(ウィーチャットペイ)」も開始した。

決済サービスは既存ビジネスの派生として展開されたため、決済業務自体で稼ぐ意識が希薄だった。このため、決済に当たっての手数料はほぼ無償か極めて低価格で、中国における爆発的な普及の要因となった。日本と中国ではキャッシュレスの担い手が異なるため、それはそのまま決済コストの差となり、キャッシュレス化の進展速度にも大きく影響を与えていると思われる。

アリババが上海にオープンした「スマート書店」に入るため、スマートフォンでQRコードを読み取る女性=2018年4月23日、上海
ちなみに中国にももちろんクレジットカードは存在する。しかし、クレジットカードを持てるのは一定の富裕層に限られている。ただ、中国では銀行のキャッシュカードは「ユニオンペイ(中国銀聯)」と連動して、デビットカードとして使えるので、このデビットカードがスマホ決済の台頭以前のキャッシュレス決済の担い手だった。

つまり、中国でも以前はキャッシュレス決済を担っていたのは銀行だった訳だが、スマホの登場とともに、金融業界のアウトサイダーである巨大IT企業がキャッシュレス決済の主導役に取って代わったことになる。クレジットカードの利用者が少なかったことも背景にある。現在でもキャッシュレス決済の旗振りを銀行がやっている日本とは構図が大きく異なっている部分だ。

◇監視されるマネーの流れ
キャッシュレス進展には、中国政府に都合が良いという一面もあった。「カネの流れ」が電子化されることにより、個人の経済活動は集積され、追跡可能となる。治安の安定を最優先する中国当局はウィーチャットで国民間の情報のやり取りを監視しているとされるが、カネの流れも同時に吸い上げることが可能だ。

日本では収入や資産の情報を「お上」に知られることへの抵抗感が強い。昔から「クロヨン」とやゆされるように、日本では源泉徴収のサラリーマン以外の個人所得の把握率が低いと言われるが、その背景の一つには現金決済がある。キャッシュレス決済では「追跡」が可能となり、税務当局も所得を把握しやすくなる。

マイナンバー導入にも抵抗感が強かった日本とは異なり、中国では、元々「身分証」という制度があり、国民全員にIDが付与され、金融機関の手続きや飛行機・鉄道利用でも身分証が必要となる。中国人のプライバシー感覚は、日本とは異なる。最近では、政府が決済情報などを基にして、国民一人ひとりの信用度を数値化するシステム構築に乗り出すという話まで出ているが、国民の間に強い抵抗感はない。

日本では中国でのキャッシュレスの浸透理由として「偽札が多い」ことが指摘されるが、これは説得力に欠ける。中国に偽札が多いのは事実だが、そもそも日本の一万円札のような高額紙幣はないし、多くの市民は偽札をつかまされても、一々警察に通報することもなく、そのまま流通させてしまう。まさに「中国式」の解決法だが、「日本は偽札が少ないから、キャッシュレスに移行する必要がない」というのは、変化を嫌う「日本式」の現状肯定に過ぎないのではないか。

◇キャッシュレスの波及効果
確かに「十分に便利な日本社会において、敢えてキャッシュレスに拘る必要もないだろう」という声はあるかもしれない。しかし、現金の取り扱いにはATMネットワークの運営やお釣りの準備などコストがかかり、日本では年間約8兆円とも言われる。キャッシュレスが進めばこうした社会的コストの低減につながるだけではない。米国、中国、韓国など電子決済化が進むグローバル経済の中で生き残るには、キャッシュレス推進は必須だ。

例えば、訪日外国人旅行客消費額は2017年の実績額で4.4兆円。政府目標では20年には8兆円となっており、規模が大きく、引き続き成長が見込まれる市場だ。特に、地方経済にとっては大きなインパクトを持っている。キャッシュレス決済に馴染んだ訪日外国人旅行客が、ストレスなく支払いができる方がリピーターになってくれるし、多くの消費を期待できる。逆に、現状を改善しないと、2020年に訪日外国人旅行者が4000万人となった場合、約1兆2000億円の機会損失が発生するという試算も出ている。

中国ではキャッシュレスを踏み台にして、「モバイク」を代表とする「シェア自転車」や「滴滴(ディーディー)」を代表とする「ライドシェア」など新たなサービスが続々と生まれており、こうしたサービスの勃興がキャッシュレス経済圏を更に拡大するという循環ができている。自動運転や電動化と相まって進化する「カーシェアリング」や「ロボタクシー」などモビリティサービス、スマホ上のワンストップの予約・決済により自動車、鉄道、航空等のあらゆる交通手段をシームレスにつなぐ「Maas(モビリティ・アズ・ア・サービス)」、キャッシュレスに伴い集積されるビッグデータを活用して融資条件を決める「トランズアクション・レンディング」などが日本よりもいち早く社会に浸透する可能性が高いことは認識しておくべきだ。

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現金決済が悪でキャッシュレスが善のような言い方はちょっとなぁ…

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